クランベールに行ってきます
厨房の裏から使用人たちが使う階段を上がって二階に出ると、すぐ隣にある客室の前で掃除道具を持った女の子が二人もめていた。
「どうしたの?」
結衣が尋ねると、片方の女の子がもう一人を指差しながら困ったように告げた。
「あ、レフォール殿下。聞いて下さいよ。この子が幽霊がいるから客室に入りたくないって言うんですよ」
結衣は思わず眉をひそめる。
「幽霊? 見たの?」
女の子はモップの柄を握りしめて結衣に訴える。
「姿は見てませんけど、絶対にいます。だって、今はお客様がいないのに、お風呂場から濡れた足跡が点々と部屋の中を歩き回ってるんですよ」
思わずホラー映画のワンシーンを想像して結衣は顔を引きつらせた。
「へえぇ。誰か君が部屋に入る前に、入った人がいるんじゃないの?」
結衣が問いかけると、女の子はムキになって更に言う。
「そんな人はいません! いたとしても濡れた足で部屋の中を歩き回る意味がわかりません」
女の子の剣幕に結衣は苦笑すると、
「確かに。ラクロットに伝えておくよ」
そう言って彼女たちと別れ、客室の少し先にある王子の部屋に向かった。
部屋の扉を開くと、ちょうど掃除を終えた女の子たちが出て行くところだった。女の子たちを見送った後、結衣はラクロット氏に客室の幽霊の事を告げた。
ラクロット氏は、さほど驚いた様子もなく軽くため息をついた。
「よくある事です」
「え? よく幽霊が出るの?」
「いえ、そういう噂の事です。真夜中に厨房から水音が聞こえたとか、満月の夜に庭園で白い影が踊っていたとか。全部根拠のない噂です」
「なーんだ。すぐそばの部屋だから、こっちにも出たらやだなって思っちゃった」
結衣は安堵と共に苦笑を漏らした。そして、ロイドの謎についてラクロット氏に尋ねた。