クランベールに行ってきます
結衣の言葉にロイドはムッとした表情で問いかけた。
「何の用だ」
「王子様がジレットに秘密を教える約束をしていたらしいのよ。知らない?」
「秘密? 知らないな」
ロイドは少し首を傾げた後、あっさりと答えた。
「お友達なんでしょ? 何か聞いてないの?」
「知らないものは、知らない」
相変わらず淡々としているロイドに苛々しながら、ふと閃いた。
「もしかして、その秘密が行方不明の原因じゃないの?」
それまで興味なさそうだったロイドが途端に食いついた。
「なるほど。一理あるな。よし、おまえはジレット様から秘密についての情報を聞き出せ」
「えぇ?!」
驚く結衣の肩を叩くと、ロイドは大声でジレットに声をかける。
「ジレット様、私はこれで失礼します」
そして、背中の装置を作動させると、超低空飛行でその場を立ち去った。
「ちょっと、ロイド!」
結衣は慌てて捕まえようとしたが、案外早くてあっさり逃げられてしまった。
呆然と見送る結衣の側に、クスクス笑いながらジレットがやって来た。
「相変わらず楽しい方ですね」
「ごめんね、騒々しくて」
ジレットの可憐な笑顔を見つめて、結衣は思わず苦笑する。
弱った。教えると言った本人が、まだ教えてもらっていない人から、どうやって聞き出せと言うのだろう。
とりあえず秘密を教える事は先送りにしなければならない。そこはロイドに責任をなすりつけてやろう。
「あの……秘密なんだけど、やっぱり準備が整わなくて……。ロイドに手伝ってもらおうと思ったんだけど、彼が忙しいみたいで、当分無理なんだ。またの機会でいいかな?」
ジレットは少し黙った後、すぐに笑顔で答えた。
「わかりましたわ。突然お邪魔した、わたくしもいけないんですもの。次の機会を楽しみにしておきます」
結衣はホッと胸をなで下ろした。とりあえずの問題は何とか回避できた。後は世間話でもしながら、秘密の一端でも聞き出せれば、ロイドに怒られる事もないだろう。