クランベールに行ってきます
少しの間そのままで、ウーウーうなる結衣をロイドは黙って見下ろした。
そして、
「そろそろいいか」
と言うと、結衣の拘束を解いて身体を起こし床の上に座った。
結衣も起き上がると、首を押さえて咳き込んだ。
「ったく、手間を取らせるな」
面倒くさそうに言うロイドを、結衣は涙目で睨む。
「なんて事するのよ! ひとの口の中に!」
「おまえが口移しはイヤだと言うからだ」
「あなたの唾液まみれのものを放り込まれたら口移しと変わらないじゃないの! っていうか、吐き出したもの飲まされるくらいなら口移しの方がマシよ!」
拳を握りひざ立ちで怒鳴る結衣を見て、ロイドはニヤニヤ笑う。
「なんだ、オレとキスしたかったのか。それは悪い事をしたな」
「どういう思考回路してるのよ!」
「超優秀な思考回路だ。丁重に扱えよ」
そう言ってロイドは自分の額を指先でコツコツ叩いた。
その横っ面を思い切り張り倒そうとして、またしても空振りに終わった。
結衣は諦めて床に座り込むと首を押さえた。
「もぉ〜。なんか喉に引っかかってるしぃ〜」
「それは好都合だ。その感覚を覚えておけ。飲み下さずに喉に引っかけるんだ。明日から毎朝飲む事になるしな。まぁ、飲み下しても胃酸には耐性があるし勝手に声帯まで移動するんだが、その分起動までに時間がかかる」
「毎日……?」
また訳のわからない説明をするロイドに文句を言おうとして出した声が自分のものではなかった。
「えー? 声がヘン。何? これ」
結衣の声を聞いてロイドが目を見張った。
「驚いたな。声まで殿下にそっくりだ。骨格が似てるからかな」
「王子様ってこんな声なの?」
「あぁ。立ってみろ」
そう言ってロイドは立ち上がった。