砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】
二の三
「帝がお呼びです」

 恭しくそう言われて、龍星は珍しく仕事の手を止めた。

 毬を左大臣家に返した翌日。
 帝に呼ばれることを半ば期待して出勤してきたようなものだ。
 夕べは淋しさのあまり眠つけない自分に苦笑した。
 たった一ヶ月というのに、屋敷中に毬の想い出が染み付いていて改めてどれほど彼女を想っていたか思い知った。

 なにより、【華】をはじめ屋敷に居るモノたちまでもが火が消えたように淋しがっていて、その想いが余計に龍星の胸を締め付けた。

「分かった。
 伺おう」

 疲労や胸の内を全く滲ませない、いつもの冷静な龍星がそこに居た。

 ただ、いつも絶対に帝の呼び出しに応じない龍星がしぶしぶとは言え立ち上がったのを見て、周りの者たちは何事かとざわついていた。


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