「どうですか?」

彼は鏡越しに私を見つめる。

「う~ん、あと少しだけ」

「わかりました。じゃ、あと気持ちだけ」

彼は私の前髪を指で挟み、リズムよくカットしていく。

ぱらぱらと落ちる髪の隙間から、鏡に映る彼の華奢な指を盗み見た。

細くて長くて白い指。

なんて美しい。



彼の美容院は、こぢんまりしていて居心地がいい。

内装や雑貨にも彼のこだわりを感じる。

独立したばかりだからスタッフを雇える余裕はなく、彼が一人で切り盛りしていた。

だから、今、客は一人。私だけ。

二人きりの空間で、彼のその指で髪を触れられるたびに心臓がトクンと音を立てていることを、彼は気づいているのだろうか。



「いつ見てもきれいな指ね」

「そうですか?ありがとうございます。だけど、俺、これけっこうコンプレックスなんですよ」

「そうなの?どうして?こんなにきれいなのに」

「男ですから。華奢なのはコンプレックスですよ」

「そんなもの?私はうらやましいけどな。私も手、コンプレックスだから」

自分の手のひらを広げて見つめていると、彼も手のひらを広げて見せた。

「合わせてみてください」

「え?」

その言葉に一瞬戸惑いながらも、にっこりと微笑む彼を見て、顔が少し赤くなるのがわかった。

そうっと手のひらを合わせる。

冷たかった。

そして、間近で見る彼の指は、私の短くてぽっちゃりした指より、ずっと長くて端麗だった。

「かわいい手」

「そう?子どもみたいな手でしょ。だから、店長さんみたいなきれいな手に憧れるの」

すると、彼は合わせていた指をそっと絡ませ。

「俺は……この手がいい」

鏡越しに私を見つめた。

そのまっすぐな瞳を受け止められずに目を泳がせていると、もう片方の手が私の頬を優しく包んでいた。

彼の冷たい手に、私の頬の熱が伝染していると思うと恥ずかしくて、余計に熱を帯びる。

彼がふんわり微笑む。

そして、私たちはそっと口づけを交わした。



「続きはお店を閉めてから」

彼は耳元でそう囁くと、私の髪を優しく撫でた。





fin


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