銀棺の一角獣
「……それは、だめ」

 アルティナは静かに首を振る。
 そして彼の手に包み込まれていた手を引き抜くと、そっと涙を払った。


「――ですが」


 ルドヴィクはなおも言葉を重ねようとした。アルティナは、彼の言葉をとどめるように唇に人差し指をあてて見せる。


「姫様」


 ルドヴィクは困惑した声になった。のばした彼の手が、解いたままの彼女の髪を撫でる。

 姫様、と呼ぶことを許していたのは彼だけだった。幼い頃から側にいてくれた忠実な騎士、そして想い人であるルドヴィクだけに。


「姫様、はやめて――わたし一人が生き残った今、王家の血を残すのはわたししかいないのだから――今、この瞬間からわたしはライディーア国女王。そして、最後の女王になるの」


 悲痛な決意の色を顔に浮かべてアルティナは立ち上がる。そして、上半身をそっとルドヴィクの胸に預けた。


「――お願い。だからその日まで――あなたはわたしの側にいてくれる? この国が終わるまで」

「お供します……どこまでも。この国が滅びようと、世界が滅びようと」


 ルドヴィクはアルティナを引き寄せる。腕の中におさめた彼女をかたく抱きしめた。
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