週末の薬指
本当の恋人同士のように激しくキスを交わしても、瀬尾さんに飛び込む事はできない。
そんな私の気持ちを一切受け入れる様子もなく、何度も私の首筋に痛みを残した瀬尾さんは、

「とりあえず、今日は送っていくけど。これで終わりじゃない」

逃がさないとでもいうような強い瞳と声で私に言い落とした。

そして、再び私の手を引いて家までの道を歩き始めた。

今起きた事がまるで夢のようで、でも、唇に残されている瀬尾さんの柔らかさや熱は、現実だと教えてくれていて。

ふらふらとした足元でどうにか歩いていた。

時々私に視線を向ける瀬尾さんは、今まで見た中で一番優しく見えて、更に私の気持ちを揺らす。
本当に、私の事を好きだと勘違いしそうになって、そのたびに私は気持ちを引き締める。

そんな事ない。

きっと、瀬尾さんに、今恋人がいないから勘違いしてるだけ。私を好きだと勘違いしているだけだ。

もしも本当に好きだとしても、私が抱えている現実を知れば、すぐにその思いは冷めるに違いない。

その瞬間が怖くて、飛び込めない。
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