【番外編】ルージュはキスのあとで




「で?」

「……」

「一体何ごとよ? 彩乃ってば」

「……」

「彩乃?」


 なにか小声でゴニョゴニョ言っている彩乃に、耳を傾ける。
 すると彩乃はキッと私を睨みつけてきたのだ。


「真美!」

「は、はいっ!」


 その迫力に、吃驚して思わず背筋を伸ばして返事をすると、彩乃は私の顔を指差した。


「どうしてよ!?」

「は?」

「どうして、これ?」

「へ?」


 彩乃の言っている意味がよくわからなかった。
 彩乃は一体何が言いたいのだろうか。
 
 なにかをすごく怒っているように思う。

 わ、わ、私……何か、やらかしたかしら?
 彩乃を怒らせるような、何か……。

 これは事がことなら早めに謝ったほうが得策だろう。

 少しだけ怯えながら、首を傾げて彩乃を見つめれば、口を尖らせているではないか。
 全くもって不可解な行動に、目を瞬かせた。


「どうして今日はそのメイクなのよ?」

「はぁ?」


 彩乃の口から出てきた言葉に、ますます意味がわからなくなる。
 なにを彩乃は怒っているといのだろうか。

 私のメイクって……。


「あ!」


 ひとつ思い当たることがあった。

 私は、恐るおそる彩乃を見ると、彩乃はフンッと鼻息荒く私を睨み続けているではないか。
 
 肩を竦めて小さく身体を丸める。


「今までの成果はどこへいったわけ?」

「えっと……」

「折角さ、体験モデルをやってメイクにだって目覚めてさ、一気に真美は垢抜けたっていうのに!」

「……」

「どうして、こうもすっぴんメイクに戻っちゃっているわけ!?」

「えっと」


 困って彩乃をチラリと見れば、般若のように顔を歪めて怒っている。
 これはマズイと思って、肩を竦めていると彩乃はプクリと頬を膨らませた。

 その仕草が、やたら可愛くて思わず噴出してしまったら、彩乃の眉がキリリとますます上がった。





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