プライマリーキス 番外編&溺愛シリーズ

(3)視線


 潤哉さんからの束縛から逃れると、時間が押していることに気づいて、私は先に会議室の方へ向かった。

 会議室で資料の準備をしてくれていた庶務課の社員に御礼を言おうと思っていると、菊池くんの姿が見えて思わず手を振ってしまった。

「久しぶり。元気だった?」
「ああ、この通り。今、教育係についているんだ」
「そう。お疲れさま」

 菊池くんの隣にいた女子社員が「お疲れさまです」とにこやかに頭を下げたので私も同じように返した。

 彼女はコーヒーの準備をしてくると言うので、黒河社長の分は私が淹れるようになっていることだけこっそり告げた。

「なぁ、花村が戻って来て不思議な気分なんだけど、秘書課勤務はどう? 懐かしい?」

「うん。黒河社長がいてくれるから、心強い感じ。結構、重役は変わってしまったものね。秘書課も人事異動がいろいろあったみたいで」

 ……それ以上は怖い過去を思い出してしまうからやめよう、と菊池くんがストップしてくれる。

「アシュレイで送別会したんだ。前任のハウエル副社長が、花村だったらすぐに産休に入るんじゃないかって言ってたけど、そのヘンは?」

 菊池くんがからかうので私は顔が熱くなっていく。左手のリングに目を留めた菊池くんは、羨ましいよ、と笑った。

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