天使の舞―前編―【完】
「君さ、さっきから、広木さんに馴れ馴れしいよねぇ?
広木さん、嫌がってるでしょう。」


二人の会話を聞いて、不機嫌に宮田が言った。


そんな宮田の言葉など、悠にとっては尾にたかるハエのごとしである。


「おい乃莉子、早くしろよ。
お前何でそんなに、反抗的なんだ?」


当然のように、悠は乃莉子を急かした。


乃莉子はムッとしたが、釈然としないまま悠に従った。


いくら大人しい乃莉子と云えど、自分の意志と関係なく何かをされるのは、ごめん被りたかったのだ。


辺りを見渡すと、週刊少年紙が目についた。


表紙には可愛いらしい、有名な女優さんが、満面の笑みで載っている。


『自分の意志で付けてやる!』


乃莉子は、その女優さんの苗字を呟いた。


「井上…。
そう。この人は、井上悠くんです。」


「だってよ。
俺は“いのうえはるか”だ。
よろしくな!」


この段階で乃莉子は、自他共に認める天使の名付け親に、なってしまったのだった。


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