天使の舞―前編―【完】

  まさかの拉致ですか

10時を回り、何人か店内に居たお客が、物珍しそうにチラチラと様子を伺っている。


彼方は胸元から、力づくで悠の腕を引き剥がす。



「生憎だが、俺が乃莉子を手元に置く。
美しき者には、俺に愛される資格がある。
魔界で俺の妃として、一生を送るのだ。」




これ見よがしに胸元をパンパンと手で払いながら、偉そうに自分の意思を悠に伝えた。


二人のやりとりを黙って聞いていた乃莉子だが、そろそろ我慢の限界がやって来たのかもしれない。


「人の事、何だと思っているのよ!
私は、何処へも行く気なんてないんだから!」


頑張って作っていた愛想笑いも、たちまち姿を潜め、乃莉子は頬を赤らめて精一杯二人を睨んで見せた。

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