キウイの朝オレンジの夜


 自分に突っ込みながら、泣きそうな顔に手を入れていく。アイメイクをどうにか誤魔化し、ファンデを均一に塗りなおして、髪を手櫛で何となく整えた。

 そして朝礼までの残り時間ギリギリに事務所に飛び込み、顔を上げずに自席にダッシュする。

 やたらと静まり返った事務所に違和感を覚えながら、椅子に座ってやっと顔を上げると、あんなにマイペースな営業職員達が、全員朝礼台の方を向いているのに気がついた。

 超珍しい光景に思わず目を見開く。

 ・・・嘘でしょ。支社長が来たって話もろくに聞かない人たちが、一体どうしたって言うの――――?

 と、思って朝礼台を振り返り、あたしは固まった。

 そこには、美形がいた。

 しかも、若い男の。

 すらりとした体に濃紺のスーツ(シャツにはあたしのマスカラの跡)、青いストライプのネクタイが爽やかだ(そしてシャツにはマスカラの・・・)。そしてその上に乗っている顔は、最近お目にかかったことのない美形で―――――

 あ。

 あたしは思わず口を開けた。指まで指しそうになった。

 サラサラの髪。上がり眉と、二重の垂れ目。長い睫毛で目元の印象をかなり柔らかくしている。尖った鼻。シャープな顎の線。ふっくらとした唇から白い歯をみせて笑うと究極の甘え顔になるこの人は―――――――

 彼の目があたしを捉えたのが判った。

 口元の笑みが大きくなり、鼻に皺を寄せて笑った。その子犬みたいなくしゃっとした笑顔をあたしは知っている。

 あたしは口を開けたままで固まり、心の中で呟いた。


 ・・・・まさか、稲葉忍・・・・。



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