キウイの朝オレンジの夜


 あたしはむすっと膨れる。

「すみませんね、スッピンはブサイクで!」

 代わって、とあたしを押しのけて、蛇口を捻りながら光が笑った。

「そういう意味じゃねーよ。営業職の化粧って、あるだろ?すぐ判るよな、格好と化粧で職種が」

 ・・・ああ、そういうことか。うむ、それは確かにそうだろうから、許してやろう。

 あたしは完成した顔を点検して、頷く。

「今日は‘泣けないメイク’なの」

「・・・何それ」

 顔を洗ってタオルで拭きながら、光が怪訝な声を出す。あたしはホラホラと指を振った。

「今日は、鬼支部長と面談があるのよ。昨日の解約について。だからウォータープルーフじゃないこってりマスカラと、マットなファンデ。泣くと酷い崩れようになるから、それだけで涙を抑制できるってわけ」

 ドライヤーに手を伸ばしながら光が嫌そうな顔をした。

「・・・嫌な化粧だな。なんつーか・・・お疲れ様です、だな」

「でしょ」

 これも、営業職のたしなみだ。


< 61 / 241 >

この作品をシェア

pagetop