*NOBILE*  -Fahrenheit side UCHIYAMA story-
ありがとう。



その数日後―――


十一月のある日の休日、


私はある花屋に来ていた。


緑色のエプロンを掛けた女の店員が一人、私に背を向けてバラの花の手入れをしている。


「すみません、ひなげしの花を貰いたいのですが」


私が声を掛けると、


「申し訳ございません、ひなげしは時期じゃなくて」


店員は申し訳なさそうに振り返り、私を見ると驚いたように目を開いた。


「……あなた、どうして?」


驚きに目をまたたき彼女が何とか呟く。手にしたバラが彼女の手から滑り落ちそうになってそれを彼女は慌てて持ち直した。


「時期じゃないのは知ってる。だからこれを」


私は赤いひなげしの花をラミネートした“しおり”を彼女に差し出した。


赤いひなげしの花言葉は




感謝




彼女が私の元を去って五年―――




ずっと言えなかった言葉を彼女に伝えよう。





「未依を生んでくれてありがとう。明子。




そして君が生まれてくれて、





ありがとう」





そう、その日は元妻、明子の誕生日だった。





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