あおぞらカルテ
case03 82歳女性 慢性心不全
「なぁ、里香?」

「んー?どうしたの?」

「…あの、さ」


夜のカフェは仕事帰りのサラリーマンや、合コンをしている大学生で賑わっている。

オレと里香は、カフェの隅にある2人席で、なんとなく時間を過ごしていた。

キャンドルの灯りに揺れる里香の瞳。


「付き合って、もう4年じゃん?」

「そうだねぇ~」

「結婚、とか…考えたりする?」

「…そらくん…?」


里香に見つめられて、思わず照れて、視線を逸らしてしまった。

照れ隠しに、白ワインのグラスを傾けて、思い切り流し込んだ。


「里香、オレさ」

「…うん…」

「やっぱり、研修医終わるまでは結婚とか考えらん…っぐえ!!!」


気が付いた時には、里香の鉄拳がオレの腹に命中していたのだった。

さっき飲みこんだはずの白ワインは、逆再生されたように、ダラダラと口元から流れていた。

オレを逆流性食道炎にする気かっ!?


「…そんなことっ…言わなくても分かってるし!!!」


里香はオレの顔に向かって、おしぼりを投げつけて来た。


「そらくんは、私なんかより仕事のが大事だしねっ!?」

「…なに言ってんの、そんなわけ…」


言いかけてハッとした。

今日って…今日って、6月1日か!?

6月1日って…


「もういい!帰る!」

「里香!ごめんって!マジごめん!」


里香の誕生日、すっかり忘れてたー!!!!

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