すっかり売り払うものもなくなり、殺風景になった部屋の中、身につけた侍女服におかしなところが無いかを確かめる。

 ブラウンの長袖ワンピースに、白いエプロン。

 胸元には赤い紐をリボンにして、きっちり結い上げた髪はボンネットの中にしまいこみ、手袋はなし。

 力仕事にも慣れたこの手が、貴婦人らしからぬことをありがたく思う日が来るなんて、少し前まで考えたこともなかった。

 人生、何が幸いするか分からない。

「ユフィ様、そろそろ参りましょう」

 この国でたったひとりの友人であり、頼り甲斐のある侍女でもあるニナの言葉に、しっかりと意思を込めて肯く。

「ええ。ここも最後と思えば、中々感慨深いものね」

 準備は万全。元々いるのかいないのか分からないような、嫁いでから今までずっと後宮から出たことがないと思われている王太子妃が、殆どの日々を街で生活していたことなど誰も知りはしないのだから。

 食事に毒を盛られる程度ならいつでもいらっしゃいなというところだが、流石にスープにネズミの死骸が丸ごと投入されては食欲も失せる。

 お飾りの王太子妃と、何度耳にしたことだろう。

 この国の王太子が愛しているのは、同性の目から見ても肉感的な色香も素晴らしい愛妾だけ。

 その存在をユフィーナが知ったのは、輿入れの為にこの王宮にやって来た初日のことだ。

 結婚相手が愛人を囲っていることについては、別に驚きもがっかりもしなかった。王宮とはそう言う場所だと分かっていたし、むしろ王太子という立場にあるひとの愛妾が一人きりだというのが意外だった位だ。

 しかし、男爵令嬢という、王妃に据えるには少しばかり身分の足りない彼女を周囲の雑音から守るため、父王に命じられるままに迎えたユフィーナに、王太子はいつも虫でも見るような嫌悪ばかりをぶつけてきた。

 誓いの言葉さえお座なりで、結婚式が済むなり愛妾の機嫌を取りに行ってしまった王太子は、花嫁のベールの下の素顔すら見ようとはせず、毎日愛妾の元へ通い続けた。

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