恋なんてミステリアス
第七章 大都会の風に吹かれて
 ビルの隙間を縫うように流れる風は真理恵には冷たく、身体の芯まで凍えさせるには充分過ぎるものであった。 
 真理恵は、軽くパーマをかけた長い髪を首元に絡ませるようにし、駅を後にした。 

 幸いにも幸子からは金銭の要求は出なかった。しかし、それが逆に今後も付き纏うのではないかという不安を掻き立たせてくれる。真理恵は、そんな気持ちと一緒に孤独な街へと戻ってきた。 

 随分と長い間留守にしてたアパート。食べ物は帰省前に全て処理し、腐らぬように配慮した結果、こうやって戻って来た時の空虚に真理恵は敗北を感じずにはいられなかった。 

 キッチンの戸棚を開くとカップ麺が二つ重ねて見えた。空腹かどうかさえ定かでは無い今、真理恵はそっと戸棚を閉めた。 
 帰宅早々乱暴に床に置いたバッグと一緒に横たわる紙袋。母が土産にと持たせてくれたお菓子は、昔、どうしても食べたいとせがんだ陣太鼓。そんな昔に好きだった物を大人になった今でも変わらず好きだと思っている母に涙が流れた。
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