牙龍−元姫−

海藻ボーイ















(*)


1人で24時間営業の大型スーパーに足を踏み入れるワタシ。いまはまだ夕方。これから作る夕飯の食材を買いに来た主婦の奥様方で賑わっている。





「…人多いな〜」





食べなきゃ千秋も里桜も心配するから作ろう!と自炊を決めたのは良いが人の多さに今から疲れ気味。店内に踏み入れた足が引き下がりそうになるのを押さえる。


買い物するだけでどうしてこんなにも気が重くならなきゃいけないんだろう、と思いながらも籠が積んである処から、一つだけ買い物籠を手に取る。









郊外型の大規模な店舗はスーパーマーケット。


インストアベーカリー・惣菜の調理場・店内飲食スペースなどを備え最終加熱をするだけの食品の販売やサラダバーなどのミールソリューションを行なっている。


ここの店舗では一般では入手しにくい食材も取り揃える事で、人気と注目を集めている。





「……安い」




人気の理由はこれか…と内心感づく。目を疑うような破格の値段で売られていた。態々このスーパーに来るためだけに遠い処からくる奥様もきっと少なくないんだろうな。



良く耳を澄ますと『今からタイムセール!』そう、ちらほら聞こえてくる。店内には今流行りのアーティストのBGM。



最早賑わうなんてモノじゃない。スーパーとは思えないくらいに五月蝿い。奥様方がぎゃーきゃーと一玉50円のキャベツを掛けて取り合っている。



『押すんじゃないよ!』
『アンタが押してるんじゃない!邪魔よ!』
『若いのはどきな!』
『煩いババア!』
『離してよ!これは私の!』
『痛いっ!髪引っ張んな!』



―――――家計をかけた奥様方の闘いは凄まじい。



私はあの中に入る勇気はないのでキャベツは諦めることにした。私なんかが彼処に入れば数秒で伸されてしまうよ。
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