この声が枯れるまで

波乱の予感?!

「隼人ー。明日楽しみだね。」


いつもと変わらない昼休み。ギターを抱いて暖かい空を眺めながら、俺は長尾の隣にしゃがんでいた。いよいよ、明日は修学旅行。長尾は、俺の気持ちなんて全く分かっていないような、にこにこした表情で、俺を見ていた。


ベランダから見える男子生徒がゴマ粒みたいに小さく、大きなグラウンドを一生懸命走っている。


小学生にとって、大好きな「鬼ごっこ」である。それも、男女一緒にやって、好きな人をタッチしたくて、男子は好きな子をわざと追いかけるんだ。女子も、好きな奴にタッチされたくて、わざと足が痛いふりをしてつかまりに行ったりする。小学生にとってはよくある話だ。


よく大人は「学校は小さな社会だ」という。俺らは、まだ社会にでていない。社会人になるのは20歳からだ。そう思っていた。社会は大変なところなんだ。そう両親に教えられてきた。



でも学校だって小さな社会だ。そして、一つ一つのクラスだって、小さな社会だ。喧嘩したり、仲間はずれにされたり、悪口を言われたり……その小さな社会でどう生きていくか?学生のこの頃から、俺等が学校で勉強以外に社会に向かうための勉強も自然に行っているんだ。



「隼人……??」



長尾はそういうと、いきなり真剣な表情になった。いつもの笑顔が全部消えた。詰めない風が俺の耳の傍を通過する。


「私、みんなと同じ中学にいけない。」



ポツ…ポツ…ポツ…


ザァァァァァァ……


「雨だァァァァ!」


グランドから、先生の声がする。みんなは、きゃーと声をだし、気がつけば、もう鬼ごっこをしている人影はなかった。一気に寒気が俺の肌を襲う。



「なん……で?」



俺は、ふるふると体を震わせて、彼女の表情を伺った。やっぱり笑っていなかった。


「お父さんの転勤。急に決まって……だから、これがみんなとの最後の旅行になるなーって。」



「そんな……。」



ザァァァァァァァァ



雨はやむことはなかった。





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