雨降り少女
雨降り少女~霧雨編~
雨が降っていた…
しとしとしとしと…
私にはありふれた、見慣れた風景。
軒下から、わずかに見える空は灰色で…





私は、その色の空しか見たことが無い。
それしか、知らない―――








この色を、ねずみ色というのだと教えてくれた人は、何処にいったのだろう。
気がついたら私はひとりだった。



私は、『雨女』というのだと、誰かが遠巻きに罵っているのを聞いたことがある。
私には、雨以外の記憶が無い。
気がついたら、雨の中に濡れたまま、ひとり佇んでいた。
だからだろうか、私は『雨』に濡れてしまうことが怖かった。
自身と常に共にあるもの、生まれながらの同一体に取り込まれてしまうような恐怖。



何か、私が『私』で無くなってしまう…恐怖。
侵食されてしまいそうな、体…
ココロ…
私…




濡れた体を、乾いたタオルで拭いてくれた人たちは、いない…変わってしまった。
乾いた布団に、乾いた服、暖かな微笑み。
もう失ったもの。
まだ手の中にあるもの。



雨を、喜んでくれた人。
干ばつの田を潤した、雨。
みんなが、私を笑顔で見てくれた時。
暖かな時間。


やがて…


降り続く雨に、枯れた稲。
決壊した川に流されていく人。
降り続く、雨。




誰かがいった。



「雨女がいるせいだ。奴を殺してしまえ」




“あたたかなひと”は、“こわいひと”になった。
みんなが、棒や、鍬を持って、立ちふさがった。



怖かった。



だから、泣いた。



雨が、勢いを増した。
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