一緒に暮らそう
共同生活
 放心状態の紗恵は、自分の生い立ちにまで遡って話し始めた。

 実母とは生き別れ、祖母に女手一つで育てられたこと。この店は祖母の遺産だが、叔父が所有していること。その叔父が先月、月の賃料を値上げしたこと。

 地元の高校を出た後、東京の調理師専門学校へ進学したこと。当時付き合っていた男のトラブルに巻き込まれ、学校を中退してしまったこと。男の尻拭いをするためにキャバクラで働いていたこと。

 その時に客として来ていた男がたまたま同郷で、あのたちの悪い堀込という男であるということ。帰郷後、偶然堀込と再会した紗恵が、彼に追い掛け回されるはめになったこと。堀込を拒み続けているせいで、彼に仕返しをされていること。地元で根も葉もない悪い噂を立てたことも、店にいやがらせをするのも、堀込の仕業だということ。そして彼は町の実力者の息子なので、父親の権力の傘に守られているということ。

 紗恵は赤の他人に洗いざらい話した。どういうわけかこの常連客、斉藤という男に全てを打ち明けてみたい気がした。
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