一緒に暮らそう
離れ離れになっても
 二人が共同生活を始めてから三週間が過ぎようとしていた。
 もう桜の季節も過ぎ、新多も新しい職場に慣れてきたところだ。

 神戸の研究所は以前いた場所とは違って所帯が大きい。前の研究所は人員が少なかったので、色々な業務、時には雑務もこなさなければならなかった。だが今は人員が各分掌業務にシステマティックに振り分けられているお陰で、新多は自分の研究分野に専念することができた。

 さりとて、昨年度と比べて彼の仕事量が軽減されたわけではなかった。仕事の環境が良くなったのを機に、彼はこれまで自分が開発した技術を論文にまとめて、海外の権威ある研究学会へ投稿しようと試みている。
 そのため彼は、もっぱら時間外に自宅で論文を執筆することとなり、多忙な日々を送っている。週末も自室に籠ってパソコンに向かっている。

 そういうわけで、同居人の女性が家の仕事を一手に引き受けてくれるというこの状況は、彼にはとてもありがたいことだった。その負担の大きさを考えると、やはり家賃はもらわない方がいいような気がしてきた。
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