Welcome to the world

望む扉

黒髪に軽いウェーブがついた、目力の強い瞳が印象的な少女。名は藤高涼歌(ふじたか すずか)、歳は十七。これが、僕の彼女に対する印象と本人からの証言だ。鈴は興味が無いからと聞かないが、最低限の情報は抑えておくべきだろう。
さて、藤高涼歌が望む世界、または扉はどんなものだろう。僕は少しばかり興味があった。そんな僕の期待を焦らすように、彼女は押し黙ったまま、一向に口を開かない。鈴が徐々に苛立つのが目に見えて分かった。
「黙ってないで、早急に要望を言いたまえ。私は君に黙せと命じた覚えはない。
用が無いのならば帰りたまえ。邪魔だ。」
鈴の苛立った口調に急かされ、ようやく彼女は口を開いた。
「ゆ、夢をみない世界を……。」
藤高涼歌の望む世界は『夢をみない世界』。どうやら鈴は多少の興味が湧いたらしく、猫の様な目をすっと細めた。
「夢とは即ち、人々が睡眠時にみる記憶整理の切れ端の事かい?」
鈴の質問に藤高涼歌は首を横に振った。
「いいえ。人の将来的な願望の方です。
私はもう、夢をみたくないんです。」
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