12年目の恋物語
9.志穂の視線


部活の朝練を終えて教室に戻る前、トイレで鏡を見ると、右の髪が跳ねていた。



ヤダ。



濡れた手で髪を引っ張ってみるけど、直らない。

仕方ない。



「汗かいたしね」



はあぁと、小さくため息を吐く。

中等部の頃は、そんなこと、ろくに気にしていなかった。

いつからだろう、身だしなみとか、そんなことを考えるようになったのは。



「志穂」

「キャッ!」



思いもかけない方角から名前を呼ばれ、思わず飛び退く。

声のした方を見ると、目を丸くした叶太くんがいた。

陽菜の彼氏。

最近、なんかケンカしてるらしいけど。



「キャッ、って。そんな驚くとこか?」

「驚くって言うか、……女子トイレ前で、男子に声かけられたら、普通、驚かない?」

「え?」



叶太くんは、キョロキョロと辺りを見回す。



「いや。むしろ、男子トイレ前?」

「ああ。……あはは」



真顔での反論に、思わず、笑顔になる。



「確かに」



トイレを出て、進行方向、つまり教室方向には男子トイレがあった。

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