プリズム
カカオマス
小樽のホテルは思っていたよりも小さかった。

煉瓦作りの外観は小樽らしく、内装もシックで洒落れていた。
部屋はツインルームにエキストラベッドを一台用意してもらった。
広くはないが、旅の疲れを癒すには充分だった。

八時過ぎると礼央は疲れ果ててしまい、ツインのベッドの一つを占領して可愛い寝息を立てていた。

絵理香がシャワーを済ませて部屋に戻ると、応接セットの椅子に座り、ビールを飲みながらスポーツニュースを観ていた翔が立ち上がった。

自分のショルダーバッグの中を探り、何かを取り出す。

「はい。どうぞ。」

照れたように言うと、小さな箱をひょいと絵理香に寄越してきた。

ピンク色の小さな小箱。

中味はチョコレートだと、すぐに分かった。

絵理香にはこのチョコレートの意味が分かる。

翔の持論では、チョコレートのカカオマスには惚れ薬の成分が入っている。
自分に惚れて欲しい人がいたらチョコレートを渡すのが効果的なのだという。

つまり、喧嘩して仲直りしたい時はチョコレートをプレゼントするのが一番、ということで翔は喧嘩して謝りたい時は、チョコレートをくれるのだった。

「なんで?喧嘩したっけ?」

「昼間、小樽ガラスの店で、絵理香が悪い、みたいなこと言っちゃって悪かったよ。」

結局、あのグラスは買わずに店を出た。

「いいよ。またいつか買えばいいもん。いつまでも待たせて、礼央に悪いことしちゃった。」

絵理香はタオルで髪を拭きながら言った。すると、翔はすっと絵理香の前に立って顔を近づけてきた。

そして絵理香の腰に両手を回して片目をつぶり、悪戯っぽく言った。

「風呂上りの絵理香、すっごく可愛くてセクシー。」

絵理香は翔のこういうところに弱いのだ。

照れ隠しに「もう!」といって、翔の胸を軽く拳で叩いた。
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