エレーナ再びそれぞれの想い
6 笑顔
 そんななつみをずっと見守り続ける女子生徒がいる。
シュウが編入していじめが始まった当初は、何度もやめさせようとしたが、なつみは、「何であなたに従わなければならないの?」と言わんばかりに聞く耳を持たなかった。
ついに彼女も何も言わなくなり、シュウがいじめられているのを見るたびに、ハァーッと深いため息をつくようになった。
  
 彼女の名は黒川忍。
娘、聡美の高校入学が決まったことで、自分ももう一度、高校に通いたいと思うようになる。
「癒しの力を持つ者よ、我に光を与えたまえ、天使降臨!」
天使召喚術によって光の扉がひらかれ、静かに天使が降臨した。
「初めまして私の名は、シオミ・クレハ・グランチェスタ。 
契約者の方、貴方の名前を聞かせていただけますか?」
そして、契約発動の激しい光の柱が黒川を包んだ。
「貴方の願いは、何ですか?」
シオミが静かに問う。
「若返ってもう一度高校に行きたい」
再び激しい光が忍を包み、黒川は女子高生の姿に。
「お母さんは、高校も大学も卒業したでしょう?」
聡美はすっかり呆れ果てている。
「あら、楽しそうじゃない」
若返った黒川は、聡美と同じ高校に入学した。
天使の力で若返って高校に入るなど、どうやらこの黒川、訳ありだ。

 「この宿題難しいな」
黒川はシュウに話しかける。でもなぜか不自然。
「あっそれ、こうやるんだよ」
シュウは問題を解いて見せた。
「すごい、白川君て頭いいんだね。私、勉強なんて20年以上やっていなかったから」
「えっ」
「あっ、いえ、その、あははは」
慌ててごまかす黒川。
かなり無理しているせいか、黒川の接し方はぎこちない。
「君、面白い冗談ですね」
シュウの一言に黒川はほっとした。
黒川は、ちょくちょくシュウを構った。
ふたりに対するなつみの強い視線を感じながら。
それを気にしているせいか、黒川は落ち着きがない。
時折、黒川と目が合ったなつみは、ふたりを強く睨みつけてきた。
なつみは、シュウがこの学校の女子生徒と親しくすることを良く思わない。

 美術の授業の時。
ふたりひと組でお互い相手をスケッチし合う課題が出された。
みんな仲の良い友達と組んで描き始めるが、シュウは相手が決まっていなかった。
そこへ黒川がやってきて、
「白川君、まだ相手は決まっていないの?」
「ええ、まあっ」
シュウは困ったような笑顔をする。
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