想 sougetu 月
 玄関を出る時、斎の背中を見て、ふと、あの言葉が脳裏に浮かぶ。

 せっかくの誕生日なのに斎は例の彼女とは会わないのだろうか?
 もしかして、夜に会う約束なのかな?
 
 そう考えたとたん、馴染んだ痛みが胸に突き刺さる。

 私は首を振って自分の思考を振り払う。

 あと少しだけ……。
 あと少しだけだから、斎が一緒にいてくれる限り一緒にいたい。

 残り少ない時間だからこそ、私と一緒にいたいと思ってくれる斎の気持ちを大切にしたかった。

 門のところで私を待っている斎。
 私はズキズキと痛む胸を抱えながらも作りなれた笑顔を浮かべる。

 動揺したとしてもすぐに貼り付けられるポーカーフェイス。
 泣きたい気持ちでだとしても、自然な笑みを浮かべられる嘘の笑顔。

 こんなことばかりが上手になっていく。
 
 斎と本当の兄妹だったら良かった。
 そうすれば私は斎を好きにはならなかっただろう。

 どんなにもしも話を想像しても、事実は変わらない。
 どうにもならない事実が私には重くてたまらなくなってしまった。

 逃げ出したくても斎が側にいてはそれすらままならないのだ。

 この想いのせいで、誰かを不幸にはしたくない。
 その気持ちだけが私を支えてきた。

 あと1ヶ月ちょっと。
 10年降り積もった想いを私は封印する……。
 
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