想 sougetu 月
 斎と入れ替わるようにすぐ美鈴おばさんが入ってくる。

「斎と喧嘩してたの? あの子すごく怒った顔して自分の部屋に入って行ったけど?」
「ん……」
「何が原因で喧嘩していたのかわからないけど、お互い納得できるまで話さないとだめよ? 少し頭を冷やしたら斎と話してらっしゃい」
「はい」

 美鈴おばさんは私を慰めるように優しく肩をさすってくれた。
 そんな優しさに罪悪感が湧いてくる。

 美鈴おばさんは私と斎の関係を知らない。
 もし知ったらどうなるのだろうか?

 それが怖くてたまらない。

 こうして本当の娘のように可愛がってくれる2人の気持ちを踏みにじってるのかと思うだけで胸が痛む。

「明日はあなたの誕生日でしょ? 斎を誘ってどこかに出かけてきたら? デート資金くらいはプレゼントするわよ?」

 いたずらっぽい笑顔が私に向けられる。

「まだ仕事がひと段落しないから、忙しくて家にいられずごめんなさいね? せっかくあなたの20歳の誕生日だっていうのに、ちゃんと祝ってあげられなくて悪かったわ」
「いいの」
「まだ先になるけれど、落ち着いたら家族みんなでどこか旅行にでも行きましょうね?」
「……はい」

 家族と言う言葉には私も含まれている。
 それなのに裏切るような関係を続けている私達。

 表情を暗くしている私に美鈴おばさんは背中を撫でると下へ降りていった。

 一瞬、斎と話そうかと悩んだけれど、斎の部屋の前に行ってノックをすると、ドア越しに一言だけ謝って自分の部屋に戻ってくる。

 かなり疲れていたのでベッドに横になると、すぐに眠りに落ちていった。
 
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