マザーリーフ
誘い
潤からメールがあったのは、同窓会から二週間後の土曜日だった。


[こんにちは。潤です。
出張で米子に行ったりしてて、メール
なかなか出来なくてごめん!
その後、大丈夫?良かったら、週末飲みとかいかない?
都合のいい日、教えて。]


(潤に私が結婚していて、子どもがいること言わなかったかな?)

潤からメールに桃子は思った。

まるで独身の女の子に送るようなメールだ。

同窓会では会話らしい会話をしなかったし、桃子は結婚指輪をしていないので潤は勘違いしているのかもしれない。


[お疲れ様~仕事大変なんだね。
うちも相変わらずだよ。
飲みに行きたいけど、子供預けるのに、実家の都合もきかないと…
もう少し待ってね。]

桃子がメールを送り、しばらくすると潤から返信がきた。

[わかった。
俺はなるべくそっちに合わせるから、
連絡して。]


メールを読んだ桃子は、出かける支度を始めた。

「ママ、お買い物に行くの?」
愛菜が聞いた。

「違うよ。おばあちゃんの家に行こう。」

「本当?ルルちゃんも連れて行っていい?」

「いいよ。」

愛菜が嬉しそうに自分のショルダーバッグに縫いぐるみを詰め込む様子を見ながら、桃子は憂鬱な気持ちになった。

そろそろこの状態を母に話さなければならなかった。

「愛菜、いい子にしてね。」

桃子は実家に向かうために車の後部座席のチャイルドシートに愛菜を乗せた。

そして、自分も運転席に乗り込むと、ガソリンメータが半分を切っている事に気づいた。

今まで車にガソリンを入れるのは隆の仕事だった。

これからは、こんな事も自分でやらなければならない。



母は愛菜と桃子のために、ケーキと紅茶を用意してくれていた。

「美味しいケーキなのよ。」
と上機嫌の母に、離婚するかもしれないと告げるのは勇気のいることだった。

離婚、と口にした瞬間、桃子は泣きそうになったがぐっと堪えた。


「隆くんは本当にいい加減だね。ローンだってどうするつもりなのかしら。」

桃子の話を聞いた母は呆れ返っていた。

母は娘が妊娠中に娘婿が無職になったことを思い出したようだ。

あまりにも刺激が強いのでゆかりに呼び出されたことだけは言わなかった。
桃子自身も思い出したくなかった。

「結論を急がないで、今は放っておきなさい。隆くんは愛菜のことかわいがってるからね。お母さんは戻ってくると思う。お父さんにはまだ話さないでおくね。」

母が意外に冷静だった事が、桃子には救いだった。

泣かれたらどうしようかと憂鬱だった。

桃子も自分の事なのにドラマの粗筋を説明しているような感覚だった。

大変なことが起きてるはずなのに実感がなかった。

桃子はなにも考えられなかった。
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