私を壊して そしてキスして

いつの間にか彼に抱きしめられていた。

ゆっくりゆっくり背中を撫でてくれる彼の手から、温かい気持ちまで伝わってくる気がする。


「好きだよ、菜那」


私がようやく泣き止んだ頃、彼は私を抱き寄せながらそうささやく。

彼の胸にギュっとしがみついて、そっと目を閉じる。



あの時、あまりにショックで、すべて自分が悪かったのだとそう思おうとした。
それが一番楽だったからだ。


だけど……そう思うことは、あまりに過酷だった。

そして、いつしか自分を見失ってしまって。
気が付けば、愛希より痩せなければと思いこんで――。


前のままの私でいいといわれることで、少し背中に背負った荷物が降ろせた気がする。

もう一度、前のような健康な「心」を取り戻せるだろうか。



その朝、私はオレンジを吐かずに食べることができた。



< 53 / 372 >

この作品をシェア

pagetop