私は母が嫌いだった。


母は、兄を溺愛するあまりに発狂し、狂人のまま山奥の精神病院の中で死んだ。

兄は昔から頭が良く要領のいい人で、30代も後半になり、仕事が軌道に乗ってくるとあっと言う間にいい女(ヒト)を見付け、すでにノイローゼ気味になっていた母を、家から追い出すようにしてさっさと病院へ入れてしまった。

母は、兄がいい人を見付けた事それよりも、かつて父にそうされてしまった様に、自分が兄に捨てられてしまう事を怖れてノイローゼになってしまったのだけれども、結局はそれを理由に兄に捨てられる事となった。


田舎を出て東京で独り暮らしをしていた私は、母が病院に入ってから死ぬまで、仕事を理由に一度も見舞いには行かなかった。

そもそも、母は自分を捨てて出て行ってしまったきり生死もわからないままの父や、父に生き写しらしい兄の事ばかりに執着し、私の事は都合のいい玩具か何かの様に扱っていたのだから、 母だって私に会いたいとは思っていなかっただろう。


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短編  家族  母子  運命  連鎖  純文学 

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