束縛+甘い言葉責め=溜息
 畑山の声は、何も聞こえない。

「2人が年子で大変で。子供が増えることが大変だって分かってたから。けど、修ちゃんが、3人先に産んどけば、後が楽だとか、色々言われて、それで、私も納得して、産んだ」

『……そうだったの……』

「その後、私、働きに出たくて。保育園で預かってくれることも分かったし、パート先も探せばあるような気がしたし。そう言ったんだけどね、なんか、流されて。

 けど、一時預かりって一日だけ子供を預かってくれる方法があって、修ちゃんが平日休みの日は子供を保育園に預けてデートして、ちょっと心を許しちゃって。

気付いたら4人目ができてて」

『……うん……』

 気付いたら4人目ができていたなんて、まだ独身の畑山には何も分からないだろう。そう思ったが、しっかり話を聞いてくれているのが伝わったので、話を続けた。

「けど、毎日すごく大変。

 この前は直君とか、みんないたから分からないかもしれないけど、最近は、長男のお弁当や送り迎えもあるから、余計大変で。

 毎日家の中にいるのが嫌で。どっかに遊びに行きたくて。

 友達もいなくて。私を遊びに誘ってくれる人なんていなくて。

 修ちゃんは新しいお店のことにかかりっきりだし、家にいても疲れてるし」

『そうかもしれないね……』

「この前、彩っち見て、すごく羨ましかった。

 私も働きたいって思った。

 オシャレしたいし、どっか行きたいし、自分1人で何かしたいって。

 それで、偶然近くに新しいケーキ屋さんができることになって、パート募集してることを知ったの。

 それで、今日の朝、子供を保育園に預けて、パートに出たいって言ったんだけどね」

『ダメだって?』

「絶対5人目作る気だと思った」

『…………』

「私が、外に出たいって言うと、いつもその方向に流れて。

 けど私、もう絶対子供を産みたくない。

 自分のために時間を使いたい。自分のことしかしたくない。

 ………だから……、今日病院行ってピルもらってきたの。

 でないと、私の話なんて聞いてくれないから」

『そのこと、知ってるの?』

 予想以上に素早い返答だった。

「私が病院から帰ってきたら、浮気してたんじゃないのかって疑って。

 本当は言おうか言うまいか考えてたけど、たまたま、薬が見つかって……。

 ショックを受けてるみたいだった。けど、お店から電話がかかって、さっき出て行ったの」

『…………我慢してたんだね、真紀さん』

 そう言われて、初めて気付いた。

 私、ずっと我慢してたんだ……。

 自覚したと同時に涙が流れていく。

「……いやだ、修ちゃんが、嫌だ。

 …………話、聞いてくれない…………」

『大丈夫。落ち着いて。僕が少し話をするよ。もっと心を広く持てって』

「分かんない、もう絶対子供なんて作らない。自分なんかいっこもみないくせに、ずっと家にいないくせに。

私が、子供欲しいつて言ったわけじゃないのに。

いつも、自分がほしいから私に産ませてるだけなのに」

『落ち着いて。大丈夫、僕に任せて』

「誠二さんがここ来たら、私、家出るから」

『えっ!?』

「どっか行きたい……」

『どっかって……。待ってよ。まず話し合いが先でしょ? 付いたら僕が修三に電話するから。それで3人いるところで話そう。ね? 

 働きたいって意思を僕からも伝えてあげる』

「それで納得しないんなら、私、子供置いて家出てもいい」

『真紀さん……』

「……だって……」

『修三を困らせることが目的じゃないからね』

「困ったっていいのよ、ちょっとくらい」

『……』

「私がどんな思いで、妊娠を受け止めてきたのか、少しくらい分かった方がいい!

 …………最低…………。ほんとに、絶対最低。

私のこと、何とも思ってないみたいに、平気でゴムしないからって。
人のことなんて、どうでもいいに違いないのよ!」

『真紀さん、あんまり……』

「結婚なんか、するんじゃなかった」


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