束縛+甘い言葉責め=溜息
 吉住が廊下を歩いてくる音がする。

「まあそんなのは、どっちでもいいじゃない」

 2人がリビングに入ってくる。私は吉住の顔を見る気にはなれなかった。

 畑山を呼んだことに気付き、内心少し乱れているはずだ。

「ところで、何で帰ってきたの?」

 ソファに3人腰かけると、意外にも、畑山は吉住にそう質問した。

「えっ、ああ……。実は、店のバイトの奴が店ん中でヤク吸ってたらしくて、ガサ入れが入ることになりました」

「えっ……」

 私は、こちらを見ていない吉住をじっと見つめた。

「そりゃただ事じゃないね」

 畑山も真剣な顔をしている。

「ごめん、私、全然知らなくて……」

 私は、ただ頭を下げた。

「いや、これは今さっきのことだから。知らなくて当然だよ。

 けど、もし店が傾いたら、本当に真紀さんにも働いてもらわないといけないようになるかもしれない。

 家も売り払ってアパートにして、車も軽だ」

 吉住の言葉を聞いた畑山が続けた。

「下手したら、半年先はそうなるかもしれない。

 真紀さん、大丈夫?」

「えっ……」

 何が大丈夫なのか聞かれているのか分からなくて、畑山を見た。

「働ける?」

「…………」

 そう聞かれると、突然怖くなる。

 今まで、どこも働きに出たことがないのに、突然家計のため、子供のためとなると、その役目をしっかり担えるのかどうか、不安になる。

「身体とか……」

「うん」

 畑山が返事をしてくれた。

「売らないといけないような日がくるの?」

 私なりに真剣に聞いたが、畑山は突然吹き出した。

「いや、そんなことはないけど……」

「あのね、そんなこと僕がさせるわけないでしょ」

「…………だって子供、4人もいるし」

「育てる自信があるからこそ、作ったんだよ」

「私はない」

 心を込めて言ったせいか、周りがしんとなった。

「……今は」

 付け加えておく。

「けど1対4はしんどいよね。大人と違って言うこと聞かないから」

 畑山はちゃんとフォローしてくれる。

「分かってますけど。

 外で働くよりは、楽だと思ってますよ」

「そんなことないよ! 一回1人で見てみてよ。絶対4人も作らなきゃ良かったって思うから」
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