焼け木杭に火はつくか?

(2)

良太郎が生まれ育った場所は、市内の西側、大きな幹線道路からは少し外れたところに作られた『瑞穂ノ団地(みずほのだんち)』と呼ばれる住宅街だった。

瑞々しい稲穂という意味がある瑞穂を地名としている場所にあるから『瑞穂ノ団地』。
なんとも単純な名前だ。
その名の通り、団地の周辺には延々と続く田園が広がっていた。
天候次第では、その田園から遙か彼方にそびえる日本一の山が臨めるときもあった。

瑞穂ノ団地はそんな田園地帯に作られた、市営住宅と分譲住宅が入り乱れる、片田舎にしては少しばかり規模の大きな団地だった。

同じ形状の五階建ての市営マンションが、いくつも行儀よく建ち並ぶ一方で、平屋や二階建ての分譲住宅も建てられ、団地内には大小あわせた三つの公園があった。
団地のほぼ中央を、小さな川が流れていた。
川岸は舗装されたきれいな石畳の遊歩道になっている。

団地の東側の外れには木が生い茂る小さな丘があり、その頂上には神社がある。
夏になるとカブトムシやクワガタ、セミなどが採れると、子どもたちの集まるスポットになっている。
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