焼け木杭に火はつくか?

(4)

夏海のなし崩し的なごり押しに、渋々嫌々ながらも掌編小説の依頼を引き受けてから三ヶ月ほどが過ぎた。
原稿料などの話も含めた詳細も何度か繰り返した打ち合わせで詰めて、いよいよさ来月号から良太郎の小説が掲載されることになっていた。
今月発売される雑誌には、その予告が掲載される。
もう、逃げ出すこともできないギリギリの正念場を良太郎は迎えていた。

前から執筆していた連載の原稿や、他の仕事の原稿に関しては、今月分も滞りなく、全て、各編集担当者に宛てて送ってあったのだが、英吾に渡すことになっている原稿だけが、全くとして進まなかった。
いや、それ以前の段階と言ってもよかった。プロットと呼ばれる物語の設計図すら全く形になっていなかった。
使い慣れた大学ノートに、思いついたことをあれこれと書き溜めてはみりのだが、結局、ただの走り書き止まりで先に進めなかった。
今日も新たに開いた白い頁を、朝から眺めているだけで、時間だけが快適な速度で進んでいた。
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