紺碧の海 金色の砂漠

(6)プリンセスの愁い

(6)プリンセスの愁い



「え? レイ陛下とティナって上手くいってないの?」


ミシュアル国王が戻り、用意されたディナーを終えるなり舞は尋ねた。その答えが予想外のものだったため、舞は思わず声を上げてしまう。


聞きたいことはたくさんあった。

しかし、とりあえずライラの妊娠と女官長スザンナの反応だろう。彼は満足気にアラビアコーヒーを啜りつつ舞の質問に答えてくれた。


「ライラの件は黙っていて悪かった。だが、本来こんなに早い時期に発表などありえないのだ。お前に伝えるのはハネムーンが終わってからで充分だと思っていた」


その件はいい。ちょっと負けたような気はしたけれど、基本的にはおめでたいことだ。

妊娠初期は流産の確率も高く、安定期に入ってから発表する、というのは芸能人でもよく聞く話だと思う。それがなんでこんなに早く発表になったのか……。舞も不思議だが特に彼女が悩むほどのことでもなかった。

気になったのは、


「女官長の反応は当然だろうな。国王夫婦は結婚丸二年を過ぎた。特に予防策を取らない場合、一年以内に八割、二年以内に九割の夫婦が妊娠する。彼らは残りの一割ということだ」


ミシュアル国王は何の感情も見せずに淡々と語った。


アズル王室はごく最近、庶子と女性に王位継承権が認められた。それで一気に王族が増えたが、基本的には女系だという。王子の子供は王子《プリンス》・王女《プリンセス》となり次世代まで王族の身分が確定している。

だが王女の子供は、男子は“サー”女子は“レディ”の名誉称号をもらい、以降は王族の身分から外れるのだ。

そして問題は、今のアズル王室にいる三人の王子は全員が庶子、ということだった。

アサギ島で静養中の前国王は継承権がないので除くとして……。ひとりは七十歳と高齢のリューク王子、ひとりはレイ国王のひとつ年下で異母弟のソーヤ王子、最後のひとりもレイ国王の異母弟で十三歳のアーロン王子である。


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