NY恋物語


驚いた。
まさかこんなところで
莉奈さんに会えるなんて。


空港で別れた時と同じ姿に
まさか、と思って駆け寄ろうとして
一瞬 躊躇った。
他人の空似って事もあるからだ。
でも それも日本でならともかく
ここはNYだ。現地の人なら
日本語に反応することは
ないだろうし、と思い切って
声をかけてみたら・・・
ビーンゴ! 
やったね、俺。今回は
本当についてる!


「お一人ですか?」
「……ええ」


曇る彼女の顔からあきらかに
何かマズイことを聞いたらしいと
直感させた。若干焦りはしたけれど
でもどうしても
訊かずには居れなくて
「どうしました?」と
言おうとしたら
わっと泣き出した莉奈さんが
俺の胸に飛び込んできた。


「綾瀬さん?!」


飛行機で
隣り合わせになっただけの俺に
こんな風に泣きついてくるなんて
余程心細かったのか
それとも・・・
否、そんな事はないと
断じてない!と思いたいけれど
この街は治安の悪さでも
その名を売ってるような街だ。
取り返しのつかない事が
莉奈さんの身に起こったのか!?と
彼女の肩を包む腕に力がこもった。


「大丈夫ですか?歩けますか?」


小さく頷く彼女をそっと
少しだけ離した俺は
自分のマフラーを引き抜き
彼女の首元を、 寒さと涙で
赤くなっている鼻先ごと包んだ。


「よーし。これで寒くない」


マフラーの中に埋まるように
一層 首を竦め
潤む瞳で俺を見上げる彼女は
置き去りにされた
哀れな仔犬のように
儚げで弱々しい。
思わず抱きしめそうになったのを
肩をやんわりと抱くだけに
辛うじて留めて
「とりあえず
どこかに入りましょう」と
彼女を促した。

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