NY恋物語

「秀明…?!」


いつもの席でいつものように寛いで
「遅いぞ」とグラスを掲げた
この目の前の秀明は本当に秀明なのだろうか?


「どうして?!」
「?」
「どうしてこんな所にいるの?」
「こんな所とは…酷い言い様だな」
「そういう意味じゃなくて!」


駆け寄った私の手が「分かっている」と
薄く笑った秀明の手に包まれると
そこから全身に甘い痺れが走って
鼓動が早くなり言葉につまった。
久しぶりの触れ合いに
大げさなほど敏感に反応してしまうのが
自分の体とは言え少し恥かしくて
思わず目を伏せた。


そんな私を椅子に座ったまま
「どうした?」と見上げる秀明の
いつもとは逆のシチュエーションに照れた私は
目を逸らしながら、言った。


「今頃はまだパーティのはずじゃ…?」
「ああ。その話は後だ。先ずは…」


秀明は上着のポケットから取り出した携帯を掲げて
「こっちが先だ」とボタンを押した。
先方がよほど慌てていたのか
それともこの電話を待ち焦がれていたのだろうか。
呼び出しにかかる時間が
三秒としないうちに始まった会話は
「見つかった」
「ああ」
「そうだな」
「OK」とこれまた短く終った。


私は状況と事情が飲み込めないまま
「誰?何?どういう事?」の疑問詞を
一纏めにしたような視線を投げかけると
秀明は両腕で私の腰を抱き寄せて
みぞおち辺りに顔を埋めた。


「ひ、秀明?!」
「無事でよかった…」


秀明の声は心から安堵した声だった。
吐き出された深い息ごと
私は秀明の頭を掻き抱だいた。

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