バージニティVirginity
朝の光がカーテンからすじのように差し込んでいた。


「玲…いい?もう一回…」


佳孝の声で玲は起こされた。

眠かった。
邪魔しないで欲しかった。

それなのに、そんなことはお構いなしに佳孝は玲を求めてきた。


昨晩、玲が部屋に戻り、布団の中に潜り込んでいると、しばらくして闇の中を佳孝が戻ってきた。

佳孝は布団に入るとすぐに寝息をたて始め、玲はそれを聞きながらほとんど眠れずにいた。


玲自身にだって愛人がいる。

それなのに、夫に愛人がいることが許せないとは自分勝手もほどがある。
それはわかっている。

寝乱れた白いシーツの布団の上で、玲は攻撃的な気持ちになった。


「…いいよ。じゃ、私の好きにさせて」

玲は身体を起こし、浴衣と下着を脱ぎ捨てた。

大きく脚を拡げ、仰向けになった佳孝の腰を跨ぎ、上になる。

夕べの余韻が隅々に残る玲の身体は、まだ充分に潤いが残り、たやすく佳孝を受け入れた。

始めはゆっくりと、段々に激しく腰を動かし、たわわに実る果実のような乳房を見せつけるようにゆさゆさと揺らす。

自ら快楽を求めるように、扇情的な声をあげる。

「すげぇ……」

佳孝は圧倒され、玲を見上げて呟き、眩しそうな目をした。
手を玲の乳房に伸ばすのを、
「駄目。触っちゃ」と言って玲は払いのける。

「えー…なんで…」
佳孝は少し笑った。
玲がふざけて意地悪していると思っていた。

玲の巧妙さに佳孝は、大きな呻き声を洩らし、

「こんなの…やば過ぎるよ…」

眉根を寄せて、切なげに言った。



子供はいらないと思った。

腰を振りながら、サトルと寝たらこんな風にしようと玲は考えていた。






誰かに揺さぶられた。


「玲、着いたよ」

佳孝だった。

寝不足の玲は、助手席側の窓にもたれ、何時の間にか眠ってしまっていた。

外を見ると辺りは緑に囲まれ、すぐそばには見知らぬ車が停まっていた。

佳孝は車のキーを抜き、エンジンを止める。


「城ヶ崎海岸だよ」

シートベルトベルトを外しながら、佳孝が言った。




『ちょっと足を伸ばして、城ヶ崎海岸にいこうか』

保養所の食堂で朝食を食べている時、佳孝が提案してきた。

『水着、持ってきてないよ』
海岸、と聞いた玲は焼き海苔の袋を開けながら言った。

『違うよ。泳ぐんじゃなくて、断崖絶壁があって大きな吊り橋があるんだよ。名所なんだ』


熱海の保養所からの帰りにはたいていどこかに寄ってから帰った。

去年は御殿場アウトレットに立ち寄った。

わざわざ熱海から先に行くのは初めてだった。

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