遠い日の夢の中で
黒の使者
私はいつものように仕事から帰宅する途中であった。 今日はどうも妄想がひどかった
。仕事が捗らず、おまけに上司にも叱られるという有り様。いつもとは違う感じの疲れが残っていたのである。
駅から歩いて五分の自宅は駅近の一軒家だ。去年やっと手に入れた念願のマイホームである。今、家が近くまで見えたところで私は足を止めた。ショベルカーやその他工事用の車両が家に停まっていたのである。私は嫌な予感がした。しかし、こんなところで立ち止まっていても仕方ないと思い、急いで家まで駆けた。
玄関の前には作業服を着た怪しげな男が立っていた。妻は怒鳴り声を上げている。

「だから、俺はそんなこと言ってねぇよ。手前勝手な思い込みしてんじゃねえっつーの」

「いえ、私どもはただこの家を壊すだけでなく、最新式の圧縮空間のご邸宅にいたしたいと思っておるのです。しかも、無料。何もかも黒ネットが無料で負担いたします。魔法の技でなんと五分!五分で無料です!」

「何が黒ネットだ!無料?そんなの信じられっか!
ターコ!」

「あぁ?タコだと?お客さんよぉタコはねぇんじゃネオンサインφゐ〇☆εⅢ」

僕は、そのやりとりが近所中に響き渡っていると思い、止めに入った。妻は私の姿に気づき、さっきの言葉遣いを改めた。
そして、いつもの良妻に戻った。

「あぁ、あなた帰ってらしたのね。待っていましたよ。」

しかし、チンピラのような作業服の男は私に対して
妻に対しての言葉遣いよりも気持ち悪く、しかも文語調であった。

「あぁ、んだこらぁ。 汝はたそ?」

そう言ったと思いきやどす黒い煙を巻き起こし、私を闇の底へと葬り去った。

「へっへっへー、そこの底でひとりでおとなしくしているんだな。 奥さんは俺がもらったよぉう。ひゃっほーい」

吐き気をもよおすほど気持ちの悪い野郎だった。しかし、私はどうすることもできずそこでうずくまっていた。
しばらくすると、どこからか馬の蹄の音が聞こえてくる。その音はどうやらこちらに向かってくるようだった。
やがて、その音は僕のいる底の上で止まった。そして、底の上の穴から男の端正な顔が覗いた。

「私は海王星からすっ飛んできた倭衣斗の国の者である。そなたを助けに参った。」

いやぁ、有難い。助かると思ったが言葉が出ない。次第に意識が遠退いていき、気づいた時は病院の白いベットに横たわっていた。天井には謎の俳句が書いてある。

「如是我聞文殊や泣きて流れ星」

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