彼女はハラハラ時計
果樹園のショートショートです♪
老舗の料亭、花水木。その一室、桔梗の間の席に座る俺…。

本日、付き合ってる彼女に嘘ついて、お見合い任務遂行中。このスーツのポケットには、あの御予約確認書があるのにな…。

間が持たない俺は、いかにも日本庭園らしい風景を眺めていた。

しかし、それにも飽き、凝った彫刻が施された座卓、高級そうな器、それに盛られた料理に目を走らせる。

カップラーメン愛好家の俺には、そうした料亭の奥深さは理解出来ない。けれども、目の前にいるのは警視監の娘、片桐巡査。粗相があってはならない。

庭園の鹿威しが静寂を破り『カコーン』と音が鳴る。緊張のせいか、まるでその音が、仕掛爆弾が起爆する瞬間に鳴らす『カチッ!』と乾いたあの嫌な音に聞こえた。

これは、もう職業病だな…。

「美吉田警部補、さきほどから、なにもお話しをされませんが、もしかしたら、こうした席は望まれていなかった、あるいは不本意な状況であるから、取りあえずやり過ごしてしまえ、そんな風にお考えですか?その辺を明確にしていただければ、私としても貴重な時間を無駄にしなくて非常に助かるんですが」

「え?」
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