お腹が空きました。

むしろ飴玉一つで恋に落ちてしまいそうです。







パタン、、


静かに閉められた扉の内側で、紗耶はケーキの箱を持ったままうつむいていた。

杉崎が靴を脱いで部屋に上がって行く。

それに習って紗耶もおずおずと靴を脱ぎ、杉崎に続いた。


こんなに神経をすり減らしながらこの短い廊下を歩いた事なんてあっただろうか。

もう繋がれていない右腕がまだ熱を持っている。

いつもの玄関。

いつもの廊下。


そしていつものリビング。


対面キッチンの前に置かれた、もう紗耶の席になっていた背の高い椅子。



同じ景色なのに今はまったく違う部屋に感じる。


「…。」


「…。」


杉崎はどかっと長いソファに座り、じっと紗耶の手元を見つめた。


「それ。」


「へっっ⁈」


「それ貸せ。」


指さされたのは譲原に貰ったケーキで。

紗耶は杉崎の意図が分からずドギマギしながら箱を渡した。


杉崎はおもむろに箱を開け、中のケーキを指で取り出す。


「あ、」


取り出されたケーキは、前に彼が話していた恋するほっぺという新作のようだ。

確かに濃厚なベリーソースジュレでコーティングされ、オモチャみたいな色をしている。


ふんだんに乗せられたフルーツはとてもとても美味しそうだった。


これがあの。


なんて綺麗なんだろうと見惚れていると、

パクっ。


あろう事か皿もフォークも使わず、杉崎がそのまま口に運び始めた。


「あーーーっ‼‼」

パクパク、いや、ガツガツ食べ進める杉崎の口の中へ、ラブチークはあっと言う間に消えて行く。


「なんで一人で食べちゃうんですかー‼‼」




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