俺と初めての恋愛をしよう
今日子は、毎日早く来て掃除をしていることを後藤が知っているとは思ってもいない。そのことを黙っているのは、後藤なりの優しさだった。
 今日子は、いつもしていることをしていない風にぎこちなく振る舞う。
 今日は、デスクでみんなが出社してくるのを待つしかない。なんでこんなに早いのかなどと今日子を気にして聞いてくる同僚もいないだろう。
 給湯室の準備まで終えると、後藤と自分にコーヒーをいれた。

「コーヒーはいかがですか?」

 後藤のデスクに置く。

「ああ、ありがとう」

 お辞儀をして下がる。多少の居心地の悪さはあったが、後藤は話かけてくることもなく、今日子は自分のデスクで仕事を始めた。
 昼休みになると、一斉に皆が席を立つ。昨日までの秘密の休憩場所はもう使えない。ちょっと時間がロスになるが、今日子は致し方なく外の公園に行くことにした。
 ビルを出ると、目の前に大きな公園がある。日陰を探しベンチでお弁当を広げた。

「いただきます」

 一人食事の挨拶をして、食べ始める。外で食べるお弁当は美味しく感じる。今まで室内で食事をとっていたのがもったいなかった。仕方なくではあったが外に出る羽目になった後藤にちょっと感謝する。
 食後の時間潰しの為の本も持ってきていたが、さすがにこの暑さではじっと読んではいられない。カフェでテイクアウトのアイスコーヒーでも買ってもう少し涼しい場所へでも移動しようかと考えた。
 早々とお弁当をしまうと、カフェに立ち寄り、アイスコーヒーをテイクアウトした。
 歩きながら、場所探しをしたが、涼しめるところはすでに先約がたくさんいた。
そんな場所探しをしている間にも、コーヒーの氷は溶け、コーヒーが薄まる。
 仕方がない、部署に戻ろう。と、うろうろすることをやめ、会社のエレベーター前で待つ。

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