赤い狼 伍

:安心できる場所

かつかつかつかつ。



靴の底が地面を鳴らす。




ヒールなんて一センチも入ってないのにこんなに音が聞こえるなんて、どれだけ自分の足がせかせかと動いてるんだろうと渇いた笑いが出た。




ふと、さっき見たタクシーのおじさんの心配そうに私を見る顔が頭に浮かぶ。






「《藤山》に着いたけど……大丈夫かね？」



「大丈夫です。」



「お嬢ちゃん、まだ早まらない方がいいよ。もっとよく考えてごらん。」



「心配してくださってありがとうございます。でも本当に大丈夫ですから。」




少し困った感じで笑いかける。

と、おじさんは「そうかね？それじゃあ……気を付けて。」私の差し出したお金を受けとりながら心配の表情を崩さずに言った。



それを頭を下げただけで終わらし、目的の《藤山》まで少しだけ歩く。





ここで、冒頭に戻るわけだが…。





《藤山》はそんなに印象が悪いのか、と疑問を持った。




本当は《藤山》の皆はいい人たちなのに…。



周りの人達からは恐れられてるって分かってはいたけど、いざ目の当たりにするとこんなにも辛いだなんて。