神さまに選ばれた理由(わけ)
愛しいひと
入院から2年後の冬、私は神戸の兄の家に遊びに行った。
私はまだあの退院以来泣いてない。子供の前でも夫の前でも。
いつも強気な私は病気になる前と根本変わってないのだ。
気に弱い自分をやっぱり見せたくはなかった。
「ママは病気だから・・・・」と言うと子供たちの心へどれだけ影響するだろう
見てるだけでも病気の進行はわかるのに。
きっと私を心から泣かせてくれる人が現れたらその人は運命の人かもしれないと思う。

さすがの夫も兄の家までは送り迎えだけで付いてこなかった。
兄を信頼してるのだ。
私はまだ辛うじて歩いていた。車椅子に頼ることも少なくなかったが・・・・・
兄嫁に甘え、兄には京都や神戸の観光地に連れて行ってもらい、やがて来るタムリミットを見据え最後の時を謳歌していた。
三宮で人気のスイーツを食べに行った帰り、兄嫁が夕飯の買い物をしに
車を降りた直後だった。
「おまえまだあの先生のこと好きなのか?」びっくりして「何藪から棒に。
知ってるんだ。先生とのこと・・・・・・・」「俺にはだだ頼りないだけにしか見えなかったが。。。。いや哲弥君が・・・
哲也くんから聞いたんだ」
「主人から何を?・・・・・」「おまえがまだ先生のこと好きで幸せになれるのなら お前のこと手放してもいいって。」
残りの人生好きなように生きろって」
「どういう意味?「離婚するから先生のとこ行けってことだよ」「子共は哲也君が引き受けるって
。でも会いたい時に会っていいって。」
「お前のことしあわせにするといって結婚しながら幸せにしてやれなかったって詫びてたよ すまないって。
「そんなこと言ってたらうちもそうだけどな。みんなどこも似たり寄ったりだ。結婚するときとは違うよ」
「そうね。それにもしそうだとしても病気になったことでその借りは十分返してもらったしね
彼のおかげで子供たちも十分優しいし、優しい家族に囲まれ私は幸せものだと思うわ。
先生のことは今も好きだし、出会えたことを奇跡だと思っている。病気になったことを含めやはり運命・・・・・
でも先生のところに行くには年をとりすぎているし、病気だし・・・行けるわけないでしょ
先生がかわいそうよ。それに私死ぬまで子供たちの母親でいたい。
子供たちにもこの先迷惑かけるけど許してくれるならなるべく近くにいたい。
先生が運命の人なら子供たちも親子の縁で結ばれた運命の子。
私の生きがいは今も昔も子供たち。小さい頃からいつもたくさんの感動をくれた。
保育園時代の徒競走もリレー戦も小学校時代のソーラン節もどの思い出も
誇らしいものばかり。2人とも成長して何んでもできるようになったけどこの人生最期まで2人の母親でいたい。孫の顔はもちろん彼らが愛した人を(女)を見ることができないのは心残りだけど・・・・・」
「わかった。明後日先生が家へ来る。お前の気持ち自分で伝えろ」
兄はそう言って車を出した。荷物を両手いっぱい抱えた姉の姿が見えた。
< 17 / 23 >

この作品をシェア

pagetop