シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

崩壊 櫂side

 櫂side
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『櫂様、アップデートが完了し、強力なデータ…いえ、ぼっ…玲様がイヌの元に転送されました。詳細は動画を生中継致しますので、ご覧下さい』


それは時を少し遡る。


吉祥が周涅の魔の手に堕ちたとわかっていても、石碑の正しい道順を把握しているレイが意識ない為に、周涅の術を破る他の代替案を必死に考えていた時のこと。

かなりの間、音沙汰なかったニノの声が響き渡ったかと思えば、表世界にいるはずの玲が"転送"されたなどという信じがたいことを告げ、突如iPhoneのスクリーンに煌と……リスの姿が映った。


"れいさま"


そう呼ばれるのは、俺の記憶の中では紫堂玲ただひとり。

だから俺は、驚きと期待のままに玲のあの端麗な姿を探したのだけれど、俺の目に映るのは、ずっと行動を共にしていた愛らしいリスの姿しかなく。


しかもいつものように、煌と喧嘩している。


なにひとつ、変わった景色ではない。


「ニノ、"れいさま"とは、リスの方か?」

『お答えします、櫂様。人間の方のぼっ…玲様です』

………。

「しかし、俺の人間の方の従兄にはどう見ても見えないが…」

『お答えします、櫂様。ぼっ…玲様は意識をデータ化して、リスの意識に同化しています。厳密に言えば、リスの体に同在しておりますが、リスの意識が弱いためにぼっ……玲様がリスの意識を制して動いている形です』


煌とのやりとりを見ていれば、確かにレイというよりはいつもの玲だ。

玲……。

確かに玲だ。


どんな姿になろうとも、俺が玲を見間違えるはずがない。


そう思った時、今更のような緊張が体に走る。


「玲が、裏世界に来ただと!!?」


そこで俺は、初めて現実に起きている事態を認識した。


何でも出来る天才肌の従兄。

今までも、つらりとした顔で難なく何でもやりのけては来たけれど、今回のこれは今までとは次元が違う。


世界を飛び越えてリスにもなれただと!?

あいつは、俺と同じ人間だぞ!?



『櫂様、今は深く考えずにいられた方がよろしいかと。ぼっ…玲様は櫂様と共に戦う為に、不可能を可能とされました。これからはぼっ…玲様も力になるでしょう』


あのレイが…玲!!?

あの玲が…レイ!!?


玲が一緒に居る!!?


驚愕と感動と。

そして――、


「……ニノ。どうしてお前は、玲の名前を呼ぶとき、"ぼっ"と澱むんだ?」

『お答えします、櫂様。長年の癖ですので…そこの処は見逃して下さい』


……腑に落ちない、若干の謎と。
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