シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

対立 玲Side

 玲Side
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物音1つしない紫堂本家。

誘われるようにして室外に出た僕は、静寂すぎる内部に目を細めた。


一見穏やかで特に変化がないようにも見えるけれど、しかしそれはあくまで表層的な事象であり、巧妙に秘匿された"危殆"は、今も尚警鐘を鳴らし続けているようにも思えて仕方が無いんだ。


正体は判らないけれど、紫堂に持ち得ぬ"異質"さが混ざっている。

僕は直感的にそう思った。


異質の人間が集った紫堂本家において、異質なものを感じるということは…それこそが正常とでもいうべきなのか、何とも皮肉めいて思えたけれど。

その異質さは単体のようでいて、まるで霧のように拡散し…蠢くように僕の走査を惑わせる。


それは固形でありながら気体のようで。

単数のようで複数のようで。


その気配の実体が掴めない。


静まり返ったままの廊下。

擦れ違う給仕の姿はなく。


僕を呼びに来た給仕の姿は無論、何処にも見当たらない。


当主の気配は依然強く感じるのに、彼の気配だけが紫堂において孤立化している感じで、当主を守るべき者達の気配が何もないというのはおかしい。


とりあえず慎重に辺りを窺いながら、当主の居る離れに行くまでの間、給仕が多く居る厨房を覘いてみた。


しかし其処には誰も居ない。

代わりにあったのは――


「血…?」


壁についていたひっかき傷のような赤い線。

まだ乾かぬそれを指に取りその匂いを嗅げば、鉄のような血の臭いがして。

また、ところどころ壁に付着している何かが飛び散ったような跡からは、まるで肉の脂身のようなぬめりある感触と、魚の腸(はらわた)のような腐臭がした。


指の触感や嗅覚は紛れもない"死"を感じるのに、僕の視覚はそれを捉えることが出来ない。


「………」


隣にある給仕達の控え室や、食堂。

無人の空間にあるのは、やはりそれらの痕跡だけ。


目を閉じれば、直ぐ様に想像出来る…凄惨な惨殺現場たりえる痕跡。

しかし目を開けば、此処には死体1つなく。


あるのはその名残のみ。

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