シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

夢現

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やばい。

本当にこれ…やばい。


玲くんのほっぺが…赤く腫れ上がってぷっくぷく。


これがあたしのせいじゃなかったら、"玲くん可愛い~"なんて、抱きついたかもしれないけれど…。


それくらい、この下膨れちゃんは可愛いのだけれど。

玲くんの小さい頃はこんな感じだったのかなって、微笑ましくもなるけれど。


それは…このお顔があたしとは無関係であったらの話。

シャレにならない現実に、あたしはただ焦るばかり。


そのぷっくりの中の、真っ白な歯の一部が欠けているはずなのに…どうしてもそれが何処か見つからない。


ぷるぷる唇に指を差し込んで、少し開けて中を覗き込んで見ようとしたけれど…玲くん辛そうに眉間に皺寄せるから、無理やりは出来なくて。


口を開けるのも痛そうだ。


「ああ、困った…困った…」


桜ちゃんはまだ戻らない。

"アレ"がなければ、煌びやかな白い王子様は戻らない。


にっこり微笑む…玲くんスマイルがキマらない。


ナデナデして冷やしても…腫れは引かない、欠けたものは戻らない。


「ぐすっ…」


どうしよう。


母性本能擽られた女性が急増かも…なんて、自分で自分をフォローしてみても、やはり玲くん…麗しいお顔が…ああ…。


ああ、夢だったらいいのに!!!

悲しいことに…現実だ。


「ん……」


頬が冷たすぎるのか、嫌がるように玲くんは身を捩らせた。


身動ぎだけでも悩ましすぎる王子様。

鼻から漏れた吐息がやけに扇情的で。

汗ばんだ鳶色の髪。


服が乱れ…紅潮した白肌を覗かせる首周りが、酷く艶やかな色気を放って。

それでもお顔は下膨れ。


「………」


桜ちゃんが飛び込んでくる寸前までの玲くんを思い出した。


――僕を叩き殺せッッ!!


怖くなかったと言えば嘘になる。

あたしの中での玲くんは、いつもにっこりほっこりで、盛る煌の様にぎらぎらした目を見せたり、力で抑えつけたりすることはなかったから。

時折あたしに際どいことをしても、いつも余裕の笑顔で終わるし、あたしは初心者だからからかわれているのだと納得していたわけで。

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