シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

悪夢

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◇◇◇


月明かりの元、イチルちゃんはあたしの手を引いた。


右にイチルちゃんと、左に**と手を繋ぎ、ひっそりと静まり返った夜道を歩いて行く。


「嬉しい。有り難う芹霞ちゃん。私の為"だけ"にこんな可愛いお人形…芹霞ちゃんの"心"が私、何より嬉しい」


よかった、"イチルちゃん人形"…気に入って貰えたみたい。

だけど何だか照れちゃうな、ここまで悦んでくれたら。


「もっともっと芹霞ちゃんの"心"を頂戴ね、うふふふふ」


月の光が、イチルちゃんの瞳を妖しげに映し出す。


「私…芹霞ちゃんが大好き。芹霞ちゃんは?」

「ん…あたしもイチルちゃん好きだよ」


**の次にね。


**は世界で一番大好きなの。

だってあたし達、運命で永遠だものね。


イチルちゃんは好きだけれど、あたしにとって、**以上に大好きなものなんてないんだ。


「………」


その時、**が突如俯き、足を止めてしまって…あたしは慌ててイチルちゃんの手を離して、**の肩を掴んで**の顔を覗き込む。


「**どうしたの? 具合悪いの?」


**はよく熱を出す。

最初に会った頃よりは健康になって、外で遊べるようになったけれど、基本身体が弱いんだ。


**は頭を横に振ると、はらはらと涙を零した。


「**!!? どうしたの!!? **!!?」


何かを堪えるように**は身体を震わせ、嗚咽を懸命に押さえ込んでいる。

そこまで我慢をしている**の姿なんか初めて見たから、あたしはただ狼狽(うろた)えるばかり。


そして**は顔を上げた。


涙で濡れて、真っ赤になっているその両目でじっとあたしを見て。

唇を噛みしめながら、あたしの両手をぎゅうっと強く握ってきた。


その黒い瞳は、あたしを詰っているようで、何かを必死に訴えているようで。


**が、あたしの知らない**のように見えて、あたしは驚いて**から手を離した。


すると**は、益々悲しそうな顔をして、俯いてしまった。


「ふふふふ、芹霞ちゃんは私のものなんだから。芹霞ちゃんの"心"は****のものじゃないよ。これ…****は貰ってないんでしょう?」


イチルちゃん人形を掲げて、**に見せつけたイチルちゃん。

**はひっくひっくと泣き出して、だけどがしりとあたしの腕を掴んだ。


それはいつもの**にはない力で。

あたしは少し…怖くなった。


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