シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

待合

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あたし達は3つの組に分かれた。


1つ目は紫茉ちゃんと朱貴…これは桜ちゃん探索組。

2つ目は百合絵さん…これは玲くんのお使い組(1人だけど)。

3つ目はあたし、由香ちゃん、玲くん…これは塾組。


「これで決まりだね」


そう口にした時、部屋の片隅から…じとっとした視線を感じた。


「…ああ、ごめんごめん。お前にまだ聞いていなかったね」


詰るような眼差しを向けていたのは、あたし達に一定距離を置いて丸まっている…真っ赤な目をしたふさふさネコ。

これは完全に"いじけモード"にお入りだ。


――あははは、そりゃあ芹霞や由香ちゃんを足蹴にするクオンは許せないけれど、だからと言って本当に百合絵さんが、芹霞お気に入りの"ふさふさ"を刈るわけないだろ? それに刈った後の"奇妙なモノ"、見てる分にも耐え難いし。躾る為の狂言だよ、狂言。

――私は、刈るより捌(さば)く方が得意ですので。ぷふ~。


玲くんが笑って言うには、朱貴の言うことしか聞かない自由奔放なクオンに対し、今後を案じた玲くんが、百合絵さんという…黄門様の印籠みたいな、絶対的なものを作りたいが為についた、悪い冗談(ブラックジョーク)だったようだ。


――僕も百合絵さんも動物は好きだよ? 昔、紫堂で…捨て猫を裏庭でこっそり育てたこともあったし。だけど逃げられて、突然いなくなっちゃった。

――あのネコ…もっと栄養をつけさせて丸々と太らせればよかったですね、時期早々でした、ぷふ~。


………。

少々、会話内容が齟齬しているのは…、真実逃亡したわけではなく、百合絵さんが、本気で"お肉料理"を実践してしまったからだとは考えるまい。


とにかくも、隣室で冗談で脅した(らしい)百合絵さんの迫力は、クオンにとって、我が身の"死"を予感させる程の恐怖だったらしく、それを笑顔の玲くんによってネタばらしされると…クオンは静かに紅皇サンの首もとから飛び降り、どんよりとした重い空気を背負って、部屋の隅っこで爪を研いだ後…丸まっていじけてしまったんだ。

それを笑いながら玲くんが手に抱いて、嫌がるクオンの喉元をまさぐってご機嫌をとったら、少しずつ立ち直ってきた。

ネコの意地より本能を引き出せる、玲くんの指…恐るべし。


「クオンに選ばせてあげよう。僕と芹霞と由香ちゃんの組、百合絵さんの組、朱貴と紫茉ちゃんの組…どちらに行きたい? ここでお留守番という手もあるけれど」


クオンはあたしに手を伸す。

即答だ。


「よし。だったら、此処に入ってね」


にこにこ、にこにこ。


玲くんが笑顔のままで差し出したのは、大きなマチがついた桜華の…紺地のスクールバック。
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